筋トレには計画性と継続性が欠かせない。その目的が筋肥大であれ、あるいはダイエットであったとしても、一度だけのハードワークで結果が出ることはないからだ。筋トレは少なくとも数か月単位で、適切な休息を挟みながら徐々に負荷を高めていくものである。

しかし、人にはさまざまな事情があり、どうしても筋トレのために十分な時間が取れないこともある。そのようなときのためのアドバイスを、ノルウェーのスポーツ医学者らがまとめたガイドライン(*1)が20216月に発表された。

*1. No Time to Lift? Designing Time-Efficient Training Programs for Strength and Hypertrophy: A Narrative Review

論文はPDF全体で17ページにもなる長大なものだが、ここでその要点と解説をご紹介しよう。

目次

両手両足の複合関節を使う種目を選ぶ

限られた時間内になるべく多くの筋肉群を効率的に鍛えるためには、バイラテラル(両手、または両足、あるいはその両方を動かす)種目、それも2つ以上の関節を動かす種目を選ぶとよい。それもなるべくなら、引く動作と押す動作の両方を行うことが望ましい。

例えば、片手のダンベルカールを左右交互に行うよりは、両手で懸垂を行うと時間を半分に節約できるということだ。ダンベルカールは肘関節だけを曲げて、上腕部を集中して鍛える。一方の懸垂は肩と肘の関節を動かし、腕・肩・背中の広範囲な筋肉を鍛えることが可能だ。論文著者らは短時間で行う筋トレメニューの具体的な例として、以下3つの種目を最低1つずつ行うことを提案している。

  • 上半身の「引く」動作(例:懸垂、またはロウ、など)
  • 上半身の「押す」動作(例:ベンチプレス、またはオーバーヘッド・プレス、など)
  • 下半身全体の種目(例:スクワットなど)

マシンを活用する

筋トレの器具には大きく分けて、ダンベルやバーベルを使った「フリーウエイト」と専用の機械を使った「トレーニングマシン」がある。例えば同じ脚を鍛えるにしても、フリーウエイトならバーベル・スクワットやデッドリフトが代表的なエクササイズであるし、トレーニングマシンならレッグプレスやレッグエクステンションなどを用いて行う。

両者には、それぞれメリットとデメリットがある。しかし時間を節約するという観点のみから比較すれば、トレーニングマシンの方が格段に便利だ。なぜなら、重量を変えるときにはピンを差し込むだけで済み、プレートを付け替える必要がないからだ。同様の理由で、フリーウエイトであってもバーベルよりダンベルの方が時間は節約できる。

ウォームアップはメイン種目の動作に限定

時間が十分にあれば、筋トレの前には入念なウォームアップを行うことが望ましい。ジョグや固定自転車などの軽い有酸素運動で心拍数と体温を上げ、アクティブ・ストレッチで筋肉と関節をほぐしていく。それからメイン種目と似た動作を自重で行うが、それだけで最低でも10分以上はかかる。

あくまで時間がない場合の次善の方法ではあるが、論文著者らはウォームアップをメイン種目の動作に限定することを提案している。例えばスクワットをメインで行う予定なら、最初はバーのみでその動作を行い、徐々に軽い負荷を増やして動作を体に慣らしていくということである。そこまでをウォームアップとし、筋肉が温まったと感じたところでメインの第1セットを開始する。

1セットの挙上回数は615回。限界に近づく重量を選ぶ

セット内の回数を決める一般的な原則としては、最大筋力を増やすことを目的とするなら重い重量(最大重量の80100%)で挙上回数を少なくし(15回)、筋持久力を伸ばすためには軽い重量(最大重量の3060%)で挙上回数を多くする(1020回)。これについて限られた時間で最大の効果を狙うために、論文著者らは下の2つを提案している。

  • 挙上回数は615回とし、最後の数回は限界に近づく程度の重量を選ぶ
  • その重量が無い場合は、単純に挙げられなくなるまで続ける

さらにセット間の休息を短くすることで、筋トレにかかる合計時間を短縮することができる。筋トレ初心者なら、セット間の休息は1分程度を目安とすればよい。

他にはスーパーセット(拮抗する筋肉群を1セットとして鍛える)やドロップセット(1セットを限界まで行い、次セット以降は重量を減らしていく)のようなボディビルダーたちのテクニックも時間を短縮するために有効だが、これらはやや上級者向きとなる。

まとめ

ここでご紹介した方法論は、最良の選択肢というわけではない。あくまでも、時間を節約しながら効率的に筋トレを行うためのものである。必ずこうしなければいけないというものではないが、覚えておいても損はないだろう。「時間がない」をジムに足を向けない言い訳にしてしまうと、筋トレを継続できないか、あるいは止めてしまうことになりかねないからだ。

By 角谷 剛 (かくたに ごう)

アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。