ボックス・ジャンプやデプス・ジャンプ、ブロード・ジャンプなどの「プライオメトリクス・トレーニング」は、瞬発力と爆発的なパワーを高める効果があるとされる。そのため、主にスピードやジャンプ力を要求されるタイプの競技(サッカー、バレーボール、バスケットボール、ウェイトリフティングなど)を行うアスリートがよく用いるトレーニングだ。陸上競技で言えば短距離走や跳躍・投擲系の種目がそうであり、中・長距離系のランナーがプライオメトリクス・トレーニングを行う例はさほど多くなかった。

ところが、このプライオメトリクス・トレーニングについて、長距離走にも効果があるとするメタ解析論文(*1)が20215月にスポーツ科学サイト『Journal of Sports Sciences』に発表された。それまで発表されていた既存の21研究、延べ511人の長距離ランナーを解析対象にしたものである。 

*1. Effects of jump training on physical fitness and athletic performance in endurance runners: A meta-analysis. 

その結果、長距離ランナーがプライオメトリクス・トレーニングに取り組むとスピードや瞬発力、そしてランニング・エコノミーが向上。特に2km5kmまでの比較的短い距離のタイムトライアルでは、大幅なタイム短縮が認められたということだ。なお、性別や年齢などのランナー属性は、その効果に有意な差異を生まなかった。

その反面、最大酸素摂取量(VO2 Max)や乳酸性閾値(Lactate Threshold)などの心肺能力を測る指標は、プライオメトリクス・トレーニングによっては向上しないことも分かった。ごく単純に述べるとすれば、この種のトレーニングではスタミナは増えないが、脚が速くなる効果があるようである。 

プライオメトリクス・トレーニングのメカニズム

地面から高さのある台の上に跳び上がる「ボックス・ジャンプ」や、逆に台の上から地面に跳び下り着地する「デプス・ジャンプ」。また、水平方向に両足を揃えてジャンプする「ブロード・ジャンプ」などは、プライメトリクス・トレーニングの代表的な種目である。あるいは、膝を高く上げるスキップや縄跳びなども有効だ。

こうしたジャンプ動作を静止した状態から1回ずつ、あるいは数回を繰り返して行う。これによって筋肉が伸び縮みするスピード、いわゆる「伸張反射」と呼ばれる能力が高まり、より速く力強い動作が可能になる。

プライオメトリクス・トレーニングは、広義の筋力トレーニングに含まれる。しかし、いわゆるウェイト・トレーニングのように重量を用いて筋肥大を図ることが主な目的ではない。それよりも、筋肉を動かす神経系の反応力を高めることを主眼とするものだ。最大筋力や筋持久力が基礎的な土台だとすれば、プライオメトリクス・トレーニングで鍛えるのはスポーツのパフォーマンスそのものに直結した部分である。

プライオメトリクス・トレーニングを行う際の注意点

プライオメトリクス・トレーニングは、筋肉が疲労した状態で行っても効果が薄い。そのため、ランニングや筋トレなど別のトレーニング種目と同じ日に組み込まないか、もしくはウォームアップを済ませた直後のトレーニング前半に行う方が良いだろう。 

量よりも質を重視したトレーニングなので、心理的にも身体的にも集中力を失わないことが何よりも大切である。1回ごとに全力で取り組めるよう、1セット内にジャンプする回数は疲れ果てるまで増やさないようにし、セット間の休息も1分間以上は取ることが望ましい。ジャンプを高回数、または長時間にわたり続けて行えば、あるいはスタミナも向上するかもしれない。しかし、それはあくまでも副次的な成果であり、プライオメトリクス・トレーニングの主目的とするべきではない。

そしてジャンプ系の動作は、見た目以上に膝や足首などの関節、ふくらはぎの筋肉、アキレス腱などに大きな負担がかかる。そのため、プライオメトリクス・トレーニングを連日で行うことは避けた方が良い。多くても週3回が目安だ。特に体重が重い人は、ジャンプ動作そのものから生じる故障のリスクがより大きくなるので、細心の注意が必要になる。

[筆者プロフィール]

角谷剛(かくたに・ごう)

アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。

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