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◆キャンプの風物詩「柵越え本数」

今年もプロ野球のキャンプ報道では「柵越えの数」が連日伝えられている。風物詩ともなっているフリー打撃の柵越え本数。長距離打者の調整具合を図るバロメーターとして、スイングの回数とフェンスを越えた打球の数、さらには安打性の打球の数がテレビや新聞をにぎわせている。

 

◆「安打性の数」は報道各社に違い

報道機関によって、スイングの数や柵越えの数は時にばらつきがあり、安打性の数は大きく違うこともある。その理由は、公式な記録はなく、記者やディレクターが1球1球、数えているためだ。キャンプが進むにつれ、取材のノートは「正」の字で埋まっていく。

 

人間による作業なのでミスはあるが、スイングと柵越えは集中して数えていれば正確な数を把握できる。問題は「安打」の数だ。キャンプのフリー打撃では、個別に生きた打球で守備練習する選手を除いて、守備は就いていない。そのため、打球の強さや飛んだ方向などによって、独自に判断せざるを得ない。

 

◆安打の基準は記者の“独断”

選手の走力によっては内野安打になる打球もあれば、相手チームの守備力や守備体形でアウトとなるものもある。だが、条件を出せばきりがない。さらに、フリー打撃は一般的に複数箇所で同時に行われるため、実際の試合なら安打かどうかを追い求めるのはあまり意味をなさない。同じ打撃練習を見ても、「厳しい」記者がカウントすれば安打性のあたりを示す「正」はなかなか増えず、「甘い」記者のノートには「正」の字が増えていく。

 

◆報道陣泣かせの「目慣らし」

フリー打撃で報道陣泣かせなのは「目慣らし」。キャンプは前日や当日にフリー打撃を行う予定の選手が球団から発表される。それを見て、その日の取材対象を決めることが多い。キャンプは投球、守備、打撃、走塁とグループに分かれ、それぞれ練習場所が異なる。お目当ての選手のフリー打撃を取材する場合は、他の場所で同じ時間に行われている練習を「捨てる」わけだが、その選手がフリー打撃で1回もスイングしないこともある。

 

打者の調整は打球を遠くに飛ばしたり、強いスイングをしたりするだけではない。投球に対してタイミングを取り、体の反応を確かめる「目慣らし」では、バットを持たないで打席に入る選手もいる。こうなると当然、ノートに「正」の字を書くことはできない。

 

◆ブルペンの球数も“名物”

投手の取材では、ブルペンでの球数を報道するのが通例となっている。これも、取材陣が1球1球カウントしているが、投手は球数を決めず納得がいくまで投げ続ける場合もある。50球、100球、150球と数が増えていくにつれて、取材陣の精度は落ちていく。そこで頼りになるのが、投手コーチやブルペン捕手。球数を正確に記録しているだけでなく、キャンプで試している新しい変化球や投球フォームについての情報も得ることができる。

 

今年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、キャンプは無観客となった。野球ファンの楽しみは減り、これまでキャンプ地を訪れたファンがSNSなどで発信していた情報もなくなる。各球団はキャンプの様子をライブ配信するなど、工夫を凝らして異例の球春を楽しんでもらう予定だ。

 

By New Road 編集部

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