片方の腕や脚だけを動かす運動を「Unilateral Exercise」と呼ぶ。例えば、右手か左手のどちらかでダンベルを上下させるアームカールであるとか、片足立ちで行うスクワット(ピストル・スクワット)などといった動作のことだ。普通の人は利き腕側の筋力が強い。Unilateral Exerciseは筋力が弱い側を集中して鍛えて、左右の筋力バランスを整えることに効果があるトレーニング方法だが、どちらかを故障したときのリハビリ期間中にもよく用いられる。皆さんは、「右がダメなときは左を鍛えるチャンスだ」のような言葉を聞いたことはないだろうか。

ところが筋肉とは不思議なもので、片方の筋肉を鍛えると反対側の筋力までもが強くなることがあるらしい。過去の研究(*1)から、こうした片方の側を鍛える動作が、故障して動かせない側の筋力やサイズを向上させるために一定の効果をもたらすことは分かっていた。

*1. Changes in muscle strength, muscle fibre size and myofibrillar gene expression after immobilization and retraining in humans

目次

コンセントリック動作とエキセントリック動作のリハビリ効果を比較した新研究

筋力トレーニングの動作は、大きく分けて2つの種類に分類される。筋肉を縮ませる動作がコンセントリック(短縮性筋収縮)であり、その反対に筋肉を伸ばす動作がエキセントリック(伸張性筋収縮)である。上腕部を鍛えるダンベルカールを例にすると、肘を曲げてダンベルを持ち上げる動作がコンセントリック、肘を伸ばしてダンベルを下げる動作がエキセントリックだ。この違いに着目して、片方の側を鍛える筋トレ動作の反対側へのリハビリ効果を調べた研究(*2)が、2023年7月にスポーツ科学及び医学ジャーナル『Medicine and Science in Sports and Exercise』に発表された。

*2. Effects of Unilateral Eccentric versus Concentric Training of Nonimmobilized Arm during Immobilization

この研究を主導したのはオーストラリアにあるエディス・コーワン大学で教授を務める日本人科学者、野坂和則氏だ。野坂氏は同大のプレスリリースでは「Professor Ken Nosaka」と紹介されている。

研究の内容

あまり運動習慣のない若者36人が利き腕とは反対側の腕を3週間ギプスで固定された。被験者らは3つのグループに分けられて、リハビリのための筋トレメニューを指示された。

  1. コントロール・グループ:筋トレを行わない
  2. コンセントリック・グループ:ダンベルを上げる動作を行う
  3. エキセントリック・グループ:ダンベルを下げる動作を行う

b), c) ともに3週間の期間中に週2回のペースで下のように指定された筋トレを行った。

  • ダンベルカール6回を5セット
  • ダンベルの重量を1回ごとに最大筋力の20, 40, 40, 60, 60, 80パーセントと増やす

研究結果

3週間のリハビリ期間が終了すると、被験者らはギプスを外され、固定されていた腕の筋力と筋肉サイズを測定された。結果は以下の通りである。

筋力:

  • コントロール・グループは筋力が15%低下した
  • コンセントリック・グループは筋力が4%低下した
  • エキセントリック・グループは筋力が4%向上した

筋肉サイズ:

  • コントロール・グループは筋肉サイズが12%減少した
  • コンセントリック・グループは筋肉サイズが4%減少した
  • エキセントリック・グループの筋肉サイズは変化しなかった

ワークアウト後の筋肉疲労とダメージに関して、コントロール・グループはもっともひどい筋肉痛に苦しみ、エキセントリック・グループがもっとも少なかった。通常の場合でも、エキセントリック動作はコンセントリック動作に比べて筋肉痛になりにくいことが知られている。

さらなる研究課題

上の研究結果は、片方の側だけで行うエキセントリック動作が、故障した側のリハビリに効果があることを示唆している。野坂教授は、プレスリリースの中で以下のように述べている。

エキセントリック動作が筋力を向上させ、筋肉サイズを増やすことうえで最も効果的であることは明らかです。それがどれほど小さい例であっても、です。この結果が他の筋肉でも再現されるかどうか、そして靱帯の捻挫や断裂、骨折、手術後などの実際に故障したケースにもエキセントリック動作が有効であるかどうか、さらに研究を発展させることが重要です。
ECU:Can’t exercise a particular muscle? Strengthening the opposite side of your body can stop it wasting away より)

もうひとつ筆者の個人的興味を付け加えるとすれば、今回の研究では「あまり運動習慣がない」若者の利き腕ではない側が対象であったが、Unilateral Exerciseが利き腕を故障してしまったアスリートのリハビリにも同じように効果があるかどうかをぜひ知りたいところだ。

By 角谷 剛 (かくたに ごう)

アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。

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