人間は多くの動物より、速く走ることも高く跳ぶこともできない。しかし、ゆっくりと長く走り続けることはできる。瞬発力や最大スピードに劣る代わり、持久力や耐久力にかけては優れていることが多いのだ。下記記事のように、サラブレッドより速く走れる人間はいないが、長距離走なら人間が馬に勝つことはある。

【研究結果】人間は馬より猛暑でのランニングに適している

その理由について、人類が進化していった過程に求める説がある。はるか有史以前の狩猟採集時代、人類の祖先たちは獲物となる動物を追いかけるうちに、素早く動くよりも長くゆっくり走る能力を進化させていったというものだ。そうした身体能力に加えて、長く走り続けることが人類の脳をも進化させた可能性があるとする研究(*1)が、最近発表された。現代において超長距離を走るウルトラマラソンのランナー(以下、ウルトラランナー)たちの脳を調べると、狩りに関する認知能力が著しく向上することが分かったということである。

*1. Human energetic stress associated with upregulation of spatial cognition.

目次

ウルトラマラソンランナーはハンターとしても優秀?

英国ラフバラー大学の研究者たちは、ヨルダンとスリランカで行われた2つのレースに出場したウルトラランナーたちの脳を研究対象とした。いずれのレースも、5日間で250㎞を走破するという非常に過酷なものだ。すると、そうしたレースで体重を減らしたランナーたちは、「採食能力を促進するための認知機能に顕著な適応」を示したことが分かった。つまり、現代のウルトラランナーたちは長く苦しいレースを走り続けることで、狩猟採集時代でも生き延びるチャンスを高めていたのである。研究者たちによると、ウルトラランナーの脳は、環境のネガティブな変化に対抗するために再構築されるということだ。

また、ラフバラー大学のニュースレター(*2)では、研究者たちの説明を以下のように紹介している。

*2. Researchers discover evolutionary evidence in ultra marathon runners.

「私たちはウルトラマラソンのランナーたちの協力を仰ぎ、私たちの脳がエネルギー的なストレスがかかる状況にどのように適応するかを研究しました。すると、250㎞を走り通したランナーたちは、採食能力を促進するための認知機能に大きな向上があったことを発見しました。植物を見つける能力が向上すると、生存の可能性が高まります。明らかな価値のある適応です。」

ウルトラマラソンの意外な副産物

筆者もウルトラランナーの端くれである。タイムはともかくとして、1日に100km走ったこともあるし、7日間で200km以上を走ったこともある。しかし、人類の祖先とは異なり、かなり甘やかされたランナーだ。食物を見つける能力を発揮する必要はまったくなく、エイドステーションに辿り着けばテーブルの上に水と食べ物が用意されているレースにしか参加したことがない。

それでも研究結果を信じるならば、私たちが長く走り続けているうちに、脳内では認知機能の向上が行われていることになる。それを活用できているかどうかはまた別の話だが、走ってアタマが良くなるのなら、それに越したことはないだろう。さらに別の研究では、自然の中で運動を行うと、精神心理学的な効果がより高くなることも分かっている。

参考:【研究結果】自然の中での運動は精神心理学的にポジティブな効果を脳に与える

言うまでもなく、ウルトラランは自然の中で行う運動の、最たるものの一つだ。「何が楽しいの?」と不思議がられることも多いが、身体が鍛えられる以外にも、潜在的なメリットはまだまだあるようだ。

By 角谷 剛 (かくたに ごう)

アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。

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