世界6大マラソンと呼ばれるニューヨーク、ボストン、シカゴ、ロンドン、ベルリン、そして東京のレースは、それぞれが異なる歴史や文化を持つ。ただし、そのすべては大都市の公道に設定された、42.195キロのコースを走るという共通点がある。これらフルマラソンを長距離走のメジャーとするならば、マイナーな存在であったはずのトレイルランとウルトラランへの参加者が、世界的に増加している。では、トレイルやウルトラを走るランナーには、伝統的なマラソンランナーと比べて異なった特徴があるのだろうか。そんな疑問に答えようとしたレポート(*1)が、英国中央ランカシャー大学の研究者が主導する「Trail Ultra Project」から発表された。

*1. Trail and Ultra Running: The Growth of a Sport, Culture, and Community

タイトルを日本語訳すると、「トレイル及びウルトラ ランニング:スポーツ、文化、そしてコミュニティの成長」になる。調査は2022年にアンケートの形式で開始され、1,019人(英国536人、アメリカ379人、カナダ36人、その他68人)から得た回答を多角的に分析したものだ。

目次

(欧米では)ウルトラランナー即ちトレイルランナーでもある

このレポートは、英国と北アメリカのトレイルランナーとウルトラランナーを対象にしたものだ。そのため、日本とは事情が異なる部分が多少ある。

トレイルランとは、山間部の登山路や未舗装の林道(トレイル)を走るフットレースのこと。そして、ウルトラランとはフルマラソン以上の超長距離を走るものを指す。本来なら別々のものなのだが、英国と北アメリカではウルトラランのほとんどはトレイルランでもある。もちろん、トレイルランにはフルマラソンより短い距離を走るものもあるので、両者は必ずしも同じというわけではない。ウルトラランナーではないトレイルランナーはいるだろうが、トレイルランナーではないウルトラランナーは極めて稀である。

その一方、日本ではサロマ湖100kmウルトラマラソンや四万十川100kmウルトラマラソンなどに人気があるように、公道を走るウルトラランのレースが数多くある。欧米とは異なり、日本ではトレイルを走ったことがないウルトラランナーも珍しくはないはずだ。調査結果はPDFファイルで全46ページという長大な報告書ではあるが、その中から興味深い点をいくつかご紹介しよう。

人種構成

レポートでもっとも驚くべき数字は人種構成だった。なぜなら、回答者の実に95.4%が白人だったのだ。2020年のアメリカ国勢調査(*2)によると、総人口のうち白人が占める比率は57.8%であるから、トレイルランとウルトラランは極端に白人偏重のスポーツであることが分かる。

*2. 2020 Census Statistics Highlight Local Population Changes and Nation’s Racial and Ethnic Diversity.

同じく、総人口比率では12.4%を占める黒人が回答者に一人もいなかったことは、アメリカでいくつかのトレイルランに参加してきた筆者の実感とも合致する。

学歴と収入

回答者のうち大卒は38.5%、大学院以上の学歴を持つのは43.5%である。収入面では世帯年収が10万ドル(約1350万円)以上の層が全体の35.4%を占めた。要するに、トレイルランナー及びウルトラランナーには、高学歴で高収入の比率がとても大きいということだ。前述した白人中心の人種構成とも、密接な関連があると思われる。

年齢と性別

年代グループでもっとも多かったのは35~44歳(34.4%)と45~54歳(30.0%)で、この2つで全体の約3分の2を占める。次に多かったのは、55~64歳(14.8%)と25~34歳(14.7%)だ。このことから、トレイルランとウルトラランは主に中高年のスポーツと言えるだろう。

性別で見ると男性が59.2%、女性が40%、それ以外が0.9%とある。現状では男性の方がやや多いわけだが、女性のランナーは近年増加し続けているので、将来的にはこの比率は逆転するかもしれない。

トレーニング量と頻度

「週に何回走るか?」という質問に対する回答には週3~4回が46.9%でもっとも多く、その次が週5~6回の40.6%だった。週間走行距離では41~60キロ(33.0%)、21~40キロ(30.4%)、61~80キロ(20.3%)の順になる。

走り始めた年代は25~34歳(25.0%)が最多で、15年以上走り続けている人は37%に及ぶ。レースに参加する数は年3~5回(34.8%)がもっとも多く、年1~2回(25.6%)がそれに続く。なお、毎月最低1回はレースを走る人も14.5%いた。

また、37.1%のランナーが4~6組のランニングシューズを所有し、2~3組が32.8%、7組以上が27.7%と続く。1組しかランニングシューズを持たないランナーは2.3%しかいない。

典型的なトレイルランナー及びウルトラランナーとは

レポートでは典型的なトレイルランナー及びウルトラランナーを、以下のように定義している。

  • 週に3~4回走る
  • 週間走行距離は50キロ程度
  • 5組のランニングシューズを所有する
  • 年に4回レースに出場するランナー

これら以外に、高学歴かつ高収入の中高年で、男性がやや多いことも典型例として挙げられるだろう。

By 角谷 剛 (かくたに ごう)

アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。

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