舗装された道路を走るロード走と、野山の未舗装路を走るトレイル走とで、ランナーに求められる能力に違いはあるだろうか。この両者は似ているが、まったく別モノだと考える人はいるだろう。反対に、どちらも走ることには変わりがないのだから、路面の違いなどは大した問題ではないという人もいるはずだ。

ロードとトレイルの両方を楽しむ市民ランナーは多いが、トップレベルの競技ランナーにとってはどうだろうか。その疑問に答えようとした研究論文(*1)が、最近ストレングス&コンディショニングスの学術サイトに発表された。フランス・リヨン大学の研究者らがロード走とトレイル走、それぞれの国内エリートランナーのトレーニングキャンプ施設に実験器具を持ち込み、トレッドミル走のデータを解析したものである。

*1. Elite Road vs. Trail Runners: Comparing Economy, Biomechanics, Strength, and Power.

目次

ロード・ランナーはランニング・エコノミーに優れ、トレイル・ランナーはパワーで優る

研究対象になったのは、ロード走10人とトレイル走7人のランナーたちだ。フランスの国家代表チームに所属する選手ばかりだが、すべてが男性とのことである。なお、その理由は論文で触れられていない。研究はトレッドミルを用いて、彼らトップレベルのランナーにとってはゆっくりとしたペースでのランニングのデータを解析した。時速10~14km、傾斜角度は0~10%である。その結果、両グループには興味深い共通点と相違点があることが認められた。

まず、彼らの走りに身体運動学的な違いはなかった。これは接地時間や歩幅、ピッチ、上下動などの指標のことである。要約するならば、ロード走でもトレイル走でも効率の良いランニングフォームには、相違点より共通点の方が多いということだろう。

また、ランニング・エコノミーについては、シチュエーションによって違いが生じることが発見された。一定のペースを守って走る際に、どれだけのエネルギーを消費するかについてである。トレッドミルのペースを時速10kmとし、傾斜を0にした場合、ロード走ランナーはトレイル走ランナーより消費エネルギーが約6%少なかった。つまり、ロード走ランナーの方がランニング・エコノミーに優れていたのだ。しかし、同じペースでトレッドミルの傾斜を10%にすると、このランニング・エコノミーの差がほぼなくなった。平地でのランニング・エコノミーに劣るトレイル走ランナーだが、登り坂では相対的に優位に立つのだ。

しかも、トレッドミルの傾斜角度10%というのは、それほど急なものではない。現実のレースでは、たとえロードでもトレイルでも、それより「きつい」坂はいくらでもある。そのような場合では、さらに大きな違いとなって現れるかもしれない。

さらに違いとして、両グループのパワー出力能力に認められた。これは、どれだけの速さで力を生み出すことができるかについての指標である。パワーの測定には固定自転車が用いられた。8秒間という短時間に最大出力で自転車を漕いだ際の加速度を比較すると、トレイル走ランナーはロード走ランナーよりトルクで23%、パワーで16%多く出力した。両グループの基本的な筋力そのものには大差がなかったということなので、トレイル走ランナーはその筋力を爆発的に引き出す能力に秀でているということになる。

元々の資質に違いがあるのか、それともトレーニングの成果か

ランニング・エコノミーとパワー出力で生じた相違点は、ランナーたちがそれぞれの専門競技に適応していった結果のように見える。あるいは、ランナーたちが持つ元々の資質に向いていた競技を選んだ結果なのかもしれない。論文著者らは、もうひとつ興味深いデータを紹介している。ロード走ランナーたちは平均して月間79時間のトレーニングをこなしているのに対し、トレイル走ランナーたちのそれは43.6時間だったということだ。

同じ全国代表レベルの競技ランナーでも、ロード走の方がトレイル走より競技人口が多い。より厳しい選考を勝ち抜いたランナーが、ロード走の代表チームに入っていると考えることもできるだろう。それにもかかわらず、トレイル走ランナーがパワーで優るということは、トレイル走にはパワーを生み出す効果があるのかもしれない。あるいは、ロード走ランナーは長時間のランニングによってランニング・エコノミーをより効率化できる反面、パワーを失っているのかもしれない。

結論を出すには、上記研究だと対象データが小さすぎるだろう。しかし、ロード走とトレイル走では求められる能力に、微妙だが異なる部分があると言って良いようだ。

By 角谷 剛 (かくたに ごう)

アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。