筋トレで挙げる重量と回数、そしてセット数を決める際は、「パワーをつけるなら高重量低回数、持久力をつけるなら低重量高回数」がほぼ定説のようになっている。その定説をプログラムに置き換えると、例えば下のようなものだ。

<筋肥大が目的>
高重量少回数(最大挙上重量の100~80%の重量で1~3回挙上)を1セットとし、セット間の休息を長く(2~3分)取り、1回のトレーニング内で3~6セット繰り返す。

<筋持久力の向上が目的>
低重量高回数(最大挙上重量の65%以下の重量で12~20回挙上)を1セットとし、セット間の休息は短く(1分以内)して、1回のトレーニング内で2,3セット繰り返す。

細かい数値は異なるにしても、これと似たような記述を、筋トレに関する書籍や記事で目にしたことがある人は多いだろう。実は筆者もつい最近までその通りと信じていた。しかし、実際のところは挙上重量と筋肥大効果の間には相関性がないことを証明した研究(*1)が、既に10年前の2012年に発表されていたことをご存じだろうか。

*1. Resistance exercise load does not determine training-mediated hypertrophic gains in young men.

目次

「最大挙上重量の80%」対「最大挙上重量の30%」

この研究でカナダ・オンタリオ州にあるマックマスター大学・身体運動学部の論文著者らは、18人の被験者らのうち半分を高重量小回数グループに、残り半分を低重量小回数グループに分け、週3回のセッションを10週間繰り返して両グループの筋肥大効果を比較した。ちなみに、被験者は全員が男性で平均年齢は21歳、平均BMIが22.6ということである。つまり、若く健康的な層が対象者だと言えるだろう。

筋トレ種目は「ニー・エクステンション」が採用された。主に太股前面を鍛えることを目的とする、マシンを用いたエクササイズだ。高重量小回数グループは最大挙上重量の80%、一方の低重量高回数は最大挙上重量の30%を1セット内で挙げられなくなるまで行い、それを3セット繰り返した。

10週間の観察期間が終わると、どちらのグループにも太股の筋肥大効果が認められたが、その数値には有意な差が生じなかった。つまり、重いモノでも軽いモノでも、それが挙げられなくなるまで挑む限りは、筋肉は同じようにデカくなるということである。逆に言えば、「体重を増やしたくないから」という理由で軽い重量の筋トレを選んでも、筋肉は大きく成長してしまうかもしれないということでもある。

自分にとって最適のプログラムを組む

筋肥大効果に差が出ないのだとすれば、筋トレの挙上重量を設定する際に選択肢が広がることになる。例えば、何らかの理由でジムに行けないときは、プレートをいくつも重ねた高重量のスクワットやベンチプレスを行うことは難しくなる。その場合でも、自宅などで軽いダンベルで高回数のトレーニングを行えば同等の効果が得られるのだ。飽きっぽい性格で、延々と同じ動作を繰り返すことを苦手とする人もいるだろう。そういう人は、少ないセット数で思い切り重い重量に挑めばよい。

筋トレ効果を上げるためには負荷を少しずつ高めていくことが求められ、これを「漸進性の原則」と呼ぶ。なぜなら、同じ負荷のトレーニングを一定期間以上続けていると筋肉が刺激を受けなくなり、反応が起こらなくなってしまうからだ。

しかし、その負荷と挙上重量は必ずしもイコールではない。時間や設備、気分、そのときの状況に応じて、最適のプログラムを自ら選ぶことができるのである。ただし上記の研究にあるように、「挙げられなくなるまで挑む」が共通のキーワードだ。決して、楽して効果を得るための方法ではないことを、念のために付記しておく。

By 角谷 剛 (かくたに ごう)

アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。

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