筋トレとは、非常に幅が広い用語である。筋肉を鍛えるという意味では、腕立て伏せやプランクも立派な筋トレだ。もちろん、ジムの専用マシンを使ったトレーニングもそうである。その中でもっともイメージしやすいのは、両端に重量プレートをつけたバーベルを持ち上げる動作ではないだろうか。トレーニングだけではなく、競技としても長い歴史と知名度がある。

デッドリフトやスクワット、ベンチプレスといった、いわゆる「Big 3」と呼ばれる種目はよく知られているし、フリーウェイトで行う筋トレの代表格とも言えるだろう。これを競技として行うのがパワー・リフティングであり、上記3種目の合計挙上重量を競うものだ。

一方、オリンピック種目でもある重量挙げ(ウェイト・リフティング)は、床に置いたバーベルを頭上に持ち上げる重量を競う。2つの種目があり、「スナッチ」は床に置かれたバーベルを1挙動で頭上に持ち上げる。そして「クリーン&ジャーク」は、同じく床に置かれたバーベルをまず肩まで持ち上げ(クリーン)、次に頭上に持ち上げる(ジャーク)という種目だ。

パワー・リフティングと重量挙げはどちらも体重制で行われ、持ち上げるバーベルの重さを競うという共通点がある。しかし、この両者には、実は異なった運動能力が求められることをご存じだろうか。パワー・リフティングの選手がひたすら最大筋力パワーを目指すのに対し、重量挙げ選手には瞬発力、スピード、バランス、柔軟性といった要素が重要になる。

もっとも、これらの競技を専門として行う人は少なく、他競技に活かすためのトレーニングとして取り入れる人の方がはるかに多い。その場合、パワー・リフティングは基礎体力にあたる部分、重量挙げはよりテクニカルな部分だと言うこともできるだろう。どちらも、専門スポーツのパフォーマンスを上げる効果を期待されている。ここでは2つの論文をご紹介するが、いずれもその効果を具体的な数値で証明しようとした研究だ。複数の研究結果を一定条件下で統合解析して結論を導く、メタ解析と呼ばれる手法が用いられている。

目次

【論文1】スクワットと短距離走

下半身の筋力が、短距離走のスピードに大きく関わっていることは容易に想像がつくだろう。この論文では、既存15の論文から510人のデータを解析し、下半身の筋力を高めるための代表的な種目であるバック・スクワット(バーベルを肩に担いで行うスクワット)の記録向上と短距離走のタイム向上との間に、明確な相関関係があることを明らかにした。

言うまでもなく、バック・スクワットを行う強度や頻度、そして期間によって効果の幅は上下する。この研究の結論では、バック・スクワットが短距離走タイムを短縮させる平均向上率を3.11 %としている。

参照:Increases in lower-body strength transfer positively to sprint performance: a systematic review with meta-analysis.

【論文2】重量挙げと垂直跳び

その場から助走をつけずに高く跳び上がる垂直跳びは、瞬発力を測定するためのテストとしてアメリカのスポーツ現場で広く用いられている。そのもっとも有名な例は、NFLが毎年ドラフト候補生たちを集めて、身体能力をテストするスカウティング・コンバインだろう。この論文では垂直跳びの記録を向上させる効果を、以下との間で比較した。

  • 重量挙げ
  • 伝統的な筋力トレーニング
  • プライオメトリクス
  • 上記いずれも行わないコントロール・グループ

その結果、重量挙げを行うグループはコントロール・グループに比べて垂直跳びの向上率が7.7%高く、伝統的な筋力トレーニングを行うグループと比べても5.1%高かったという。

なお、重量挙げとプライオメトリクスとの間には、顕著な違いは認められなかった。しかしプライオメトリクスは、そもそもジャンプする動作を多く用いるトレーニング方法である。重量挙げにそれと同じくらい垂直跳びの記録を向上させる効果があるということは、注目するべき発見ではないだろうか。

参照: Olympic weightlifting training improves vertical jump height in sportspeople: a systematic review with meta-analysis.

重量挙げとパワー・リフティングを取り入れるために

さすがに昨今では、「筋トレするとスピードが落ちる」なんていうことを口にする指導者はいないだろうと信じたい。上記で取り上げた論文は、筋トレが主に素早く動くことを求められるスポーツのパフォーマンスを高める効果について調べたものだ。しかし、筋トレが筋持久力や心肺能力を高める効果についても、実は多くの研究がある。

それでは、重量挙げやパワー・リフティング、あるいはその両方に取り組んでみようと思い立ったとしよう。しかし日本では、まずその練習場所を探すことに苦労するかもしれない。バーベルのラックは用意してあっても、そのバーベルを床に落とすことを許可しているジムは少ないからだ。それでは、たとえパワー・リフティングは行えたとしても、重量挙げを行うことはできない。その点、筆者がこの10年にわたり関わってきたクロスフィットでは、パワー・リフティングも重量挙げも日常的なプログラムに組み入れられている。もちろん、そのための設備も指導者も充実している。ジャンプ力やスピードを高めたいと望む人々にとって、こうした環境は非常に望ましいものかもしれない。

By 角谷 剛 (かくたに ごう)

アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。

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