色んな面から考えて、40代は一番バランスの良い年代ではないでしょうか。これは知識と経験のバランスがちょうど良い、働き盛りのビジネスパーソンだけでありません。スポーツの世界でも、私は同じなのではないかと感じています。その根拠を聞かれたら「私です」とお答えしようかと思いますが、もちろんそれだけで納得しない方もいるでしょう。そこで可能な限り客観的な視点から、このことについてご説明したいと思います。

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テニスの強さはパデル上達の絶対条件ではない

前回私は、パデルで「オジサンアスリートドリーム」を掴んだとお伝えしました。私は若い頃にテニスプレーヤーとして国内の大会に出場し、全日本テニス選手権出場を目指して日々トレーニングに励んでいましたが、残念ながらテニスで全日本出場の夢は叶わず。競技としてのテニスは、そのまま引退しました。一方、アラフォーから始めたパデルではこれまでそれなりの成績を残すことができ、現在も世界に挑戦しています。こう言うと、こんなことを思う方が少なくないかもしれません。

「パデルはテニスとスカッシュを足して2で割ったスポーツとも言われるし、昔テニスをやっていた人なら勝ててしまうスポーツなのでは?」

実際、プレー前にそうおっしゃる方はいますし、口には出さずとも目がそう言ってる方はこれまで多く見てきました。真剣のところ、テニスに取り組んでいた人にアドバンテージがあるというのはあると思います。ただし、それがパデルで上達するための絶対条件ではありません。

私を例にお伝えしますが、私はテニスで特に目立った成績を残したことはありませんでした。そして現在パデルをされている方の中には、テニスでインターハイやインカレ出場、また実業団の選手として活動していたことのあるような選手もいます。ですが、そういったテニスでの輝かしい経歴を持った選手とプレーしても、パデルであれば私は負けません。以前、元プロテニスプレーヤーの方と、プロテニスプレーヤーのヒッティングパートナーを務めていた方が組んだペアと対戦しましたが、そのときも負けませんでした。

サッカーとフットサルが似て非なるスポーツであるように、テニスとパデルも似て非なるスポーツです。パデルでも有用なテニスのテクニックは活かしつつ、パデルで必須となる技術や戦術、身体、メンタルを新たにマスターしなければいけません。

加齢によって得られる恩恵

テニスでは「高い技術」と「高い身体能力」があれば、それだけでかなりのアドバンテージになります。例えば「速く動けて速いボールが打てる」という能力は、テニスにおいて大きな武器となるでしょう。これはパデルでももちろん有効ですが、テニスほどではありません。 また、テニスに比べると、パデルは覚えなければいけない(複雑な)技術は少ないという特徴があります。速いボールに関して言えば、パデルの場合は一回自分の身体の横を猛スピードで通り抜けていったとしても、壁があるのでまた自分の近くに戻ってくることがあります。しかも、最初に横を通り抜けたときより遅いボールになって…です。

専門的な話は避けて簡単にご説明しますが、パデルでは戦術や駆け引き、精神的なスタミナなどが重要だと私は思っています。杓子定規に速いボールをただ打ったり、特に考えもなく感情に任せてプレーしてしまったりすると、パデルでは一定のレベル以上からは勝つことができません(このようなプレーヤーはテニスでも勝てませんが、パデルではより勝てません)。パイロットの間では、「高齢なパイロットも大胆なパイロットもいる。でも、高齢で大胆なパイロットはいない。」という格言があります。私はこれが、スポーツでも当てはまると思っているのです。

これは一般論になりますが、普通、人間は年齢を重ねていくことで忍耐力や広い視野、思考力、思慮深さなどが高まっていきます。ちなみに集中力は43歳でピークを迎え、 感情認知能力は48歳、新しい情報を学び理解する能力のピークは50歳だそうです。これらの能力を駆使すれば、まだまだ40代以上の人だって“競争”を楽しめるのではないでしょうか。逆に、若者の特権とも言える「速さ」「回復力」「敏捷性」などで勝負しようとしたら、さすがに熟年アスリートは厳しいはずです(遅筋繊維より速筋繊維の方が加齢と共に低下しやすいというデータもあります)。

一方、筋肉は適切な負荷をかければ、年齢に関係なく向上するということも分かってきています。例えば腹筋を鍛えるトレーニングの一つ、プランクというメニューをご存じでしょうか。このプランクの姿勢を8時間以上も維持し、ギネスに載った人というのが実は62歳の男性です。この方は、1日に700回の腕立て伏せをするのだとか。61歳まではまったく腕立て伏せができなかったのに、いきなり62歳になったらできるようになったとは考えにくいですよね。トレーニング界には「使いなさい、さもなければ失われる」という言葉があります。ということは、きちんと時間をかけて適切な負荷をかけ続けていけば、筋肉だって成長するということです。ですから、年齢が上がってもスピードやパワーで勝負したいという人がいても構わないし、まったく不可能なことでもないと思います。

ただし個人的には「頑張らないと手に入らないもの」で勝負するより、意識的にせよ無意識的にせよ、これまで自分が手に入れてきた能力を駆使してプレーした方が効率的だと考えています。他にも、例えば以下のような能力は、年齢が上がってからの方が手に入れやすいのではないでしょうか。

  • 同じことができる
  • 同じことを何回もできる
  • 同じことを飽きずに何回もできる
  • 経験を積んでいる
  • その経験から目の前の課題を分析・解決できる
  • 相手を観察することができる
  • 自己分析できる
  • 自分の限界を知っている

その競技においてフィジカルの要素がどの程度の割合かにもよるので、もちろん一概には言えません。ただ、パデルのようにフィジカルコンタクトがなく、また対人スポーツである場合、このような「加齢による恩恵」を駆使してプレーすることは熟年アスリートにとって必須だと思います。

楽しさを原動力に取り組もう

最後に少し話が逸れますが、私は前述した「競争を楽しむ」「競争が好き」という言葉が好きです。海外選手に多いのですが、キャリアのピークから落ちてきている選手、あるいは突き抜けそうで突き抜けない選手などに対してメディアが「なぜ、あなたはまだプレーするのですか?」という意地悪な質問をしたとき、こう答える選手をよく見かけます。これに、私も大いに賛同です。

楽しいものはやめられない。きっと、それだけなのではないでしょうか。一見すると「往生際が悪い」と見えるかもしれません。しかし、そんなもののために、自分が楽しいことをやめる人なんていないと思います。一心不乱にプレーすることや、レベル問わず競争が楽しいと思えるオジサン(もちろん若者でも)は、どうか胸を張って練習に取り組んでください。

By 庄山 大輔 (しょうやま だいすけ)

2019年にアジア人初となるWORLD PADEL TOUR出場を果たし、2021年現在、45歳にして再度世界に挑戦中。全日本パデル選手権二連覇、アジアカップ初代チャンピオン。国内ではコーチ活動も行なっている。モットーは「温故知新」。