マラソンの指南書やウェブサイト等では、マラソンを走るまでの準備として3か月間、あるいは12週間といったトレーニング期間が提唱されることが多い。それより短いと効果に乏しく、それより長いと計画が立てにくいからではないだろうか。仮に12週間だとして、週ごとに何をするべきかが指示されるので、ランナーはそのメニューを参考にし、日々のトレーニングを消化していくことになる。

しかし、それだけの期間ともなれば、人にはさまざまな予期せぬことが起きる。故障するかもしれないし、走るには適しない天候になるかもしれない。もしくは、仕事や家庭の事情で時間が取れなくなることだって考えられるだろう。単純に、走るモチベーションが一時的に低下することだってあるかもしれない。職業的なランナーならともかく、市民ランナーが毎日途切れなくトレーニングすることは難しいものだ。

どのような理由であれ、マラソンの準備期間中にトレーニングを中断する期間が生じることを避けられないとすれば、その中断期間とタイミングはレース本番のタイムにどれだけ影響するだろうか。そんな疑問について調べた研究(*1)をご紹介しよう。

*1. Estimating the cost of training disruptions on marathon performance.

30万人のランナー、1500万件のランニング記録が示した傾向

この論文は、アイルランド国立大学ダブリン校の研究チームが2023年1月に発表した。ランニングやサイクリングのソーシャルメディア大手『Strava』のデータを利用して、2014年から2017年にかけてフルマラソンを完走した約30万人のランナー、1,500万件以上のランニング記録を解析したものだ。ランナーの平均像は以下の通りである。

  • 年齢:約40歳
  • 週間走行距離:約40km
  • 男性(約23万人)の平均完走タイム:約4時間
  • 女性(約6万人)の平均完走タイム:4時間24分

つまり、対象は競技ランナーではなく、一般的な市民ランナーが対象である。さらに、研究者たちはその膨大なデータから、以下の条件をすべて満たすランナーに解析対象を絞った。

  • フルマラソンを複数回完走した
  • レースから12週間以内に7日以上にわたってトレーニングを中断した期間が少なくとも1回以上ある
  • 12週間のうち、7日以上の中断期間が一度もなくトレーニングを続けたことがある

まず当たり前のようだが、トレーニング中断があった場合となかった場合では、前者の方が平均して完走タイムが遅くなる(5~8%)。また、中断期間が長くなるほど、その代償も大きくなる。2週間の中断で6%、3週間で7.5%、それぞれ完走タイムが平均して遅くなるということだ。

さらに一歩踏み込んで、ランナーの性別、年齢、走力レベル、およびトレーニング中断が発生したタイミングに応じ、トレーニング中断がレース結果にどのような影響を及ぼしたかを比較した。すると、以下のような興味深い差異が確認されたということだ。

  • 男性(5%)の方が女性(3.5%)よりも大きな影響を受ける
  • 速いランナー(5.4%)は遅いランナー(2.6%)よりも大きな影響を受ける
  • トレーニング中断が期間後半に発生した場合(2%)は前半に発生した場合(4.4%)より大きな影響を受ける

つまり、あなたが男性で平均より速いランナーであるという自覚があり、レース本番が近づいた時期に入っているのであれば、トレーニング中断から生じる完走タイムへの影響は大きくなる。そうでなければ、ある程度の影響は免れないにしても、ダメージは比較的少なくて済むということになる。

ちなみに、トレーニング中断が発生する可能性そのものについて、ランナーの属性によって大きな違いは認められなかったそうだ。期間を6日以内に縮めると、ランナー全体の50%以上が何かしらの理由で、12週間のうちにトレーニング中断を経験するということである。

マラソンの準備には、トレーニングの継続性が何よりも重要だ。しかし、それができない場合の影響について事前に知っておくことも、けっして無駄ではないだろう。日々トレーニングに取り組むうえで、ぜひ参考にしてほしい。

By 角谷 剛 (かくたに ごう)

アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。

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