インターバル形式のトレーニングを行う際、ラウンド間の回復時間を軽めに動くべきか(アクティブ・リカバリー)、あるいは完全に休むべきか(パッシブ・リカバリー)。これには、さまざまな説がある。

その典型的な例は中距離インターバル走だ。400mの陸上競技トラックで1周(400m)ないし2周(800m)を全力で走るラウンドを、間隔を置いて繰り返すトレーニング。これは長距離ランナーの定番メニューだが、その回復時間をジョグで繋ぐのか、あるいは地面に倒れ込むことを許すか、多くは指導者の判断に任させる。

ちなみに、1952年のヘルシンキオリンピックで5,000mと10,000m、マラソンの長距離走3種目すべてで金メダルを獲得した『人間機関車』こと故エミール・ザトペック選手は、「400m走を100本」のインターバル走を行ったことで有名だ。その際、ラウンド間は150mのジョグで繋いでいたらしい。そのこともあり、陸上競技の専門家はジョグで繋ぐ回復を選ぶことが現在でも主流となっている。

しかし、インターバル走は最初から最後のラウンドまで全力を出し切ることで、心肺能力を向上させることが本来の目的だ。それならば、回復時間中はできるだけ休んだ方が良いという考え方もある。もちろんランナーからすれば、完全に休む方が気持ちの上ではるかに楽だろう。しかし、せっかく辛い思いをするのであれば、より効果的なトレーニング方法を選択したいと願うこともまた自然である。

この長年の議論に回答を試みた研究(*1)が、最近「ヨーロッパ応用生理学ジャーナル」(European Journal of Applied Physiology)に発表されたのでご紹介しよう。

*1. Active vs. passive recovery during an aerobic interval training session in well‑trained runners.

 

目次

研究内容

この研究は11人の長距離ランナーを対象に、2分間の全力走を間に2分間の回復時間を挟んで4ラウンド行ったものだ。回復の2分間を、ジョグで繋ぐセッションと立ち止まって休むセッションでそれぞれ違う日に行い、酸素供給量や心拍数、乳酸濃度、主観的な疲労度などを比較した。その結果、両セッションの数値には大きな違いはなく、主観的な疲労度だけはジョグで繋いだセッションの方がやや大きかったということである。

この研究の結果を素直に読むと、インターバル走の回復時間をジョグで繋ごうと完全に立ち止まろうと、生理的な回復効果には大きな差はなく、ただ精神的にはジョグで繋いだ方が辛いということになる。

素人ランナーでの検証

もっとも、この研究の被験者たちは、かなり経験のある長距離ランナーである。10km走の平均タイムが35分だということだから、フルマラソンのサブスリーも十分に狙えるレベルだ。トップ選手ではないかもしれないが、とはいえ決して素人でもないだろう。

そうした専門ランナーであれば、2分間4ラウンドを最初から最後までフルスピードで走ることができるかもしれない。しかし、それよりレベルが落ちる一般ランナーにとって、これは非常に困難であることは想像できるだろう。すると、やはり適切な回復方法も、一般ランナーと専門ランナーでは異なってくるのではないだろうか。

そのような疑問から、筆者は自らの身体を使って実験してみた。ちなみに、筆者の10km走タイムは45分くらいだ。誇るわけではないが、上の被験者たちと比べるとかなり見劣りするレベルである。陸上競技トラックを使って、2日連続で2分間4ラウンド、回復2分間のインターバル走を行ってみた。初日は回復時間をゆっくりとしたジョグで繋ぎ、2日目は完全に立ち止まった。心拍数のデータをスマートウォッチで取得してみると、その結果は以下の通りである。

 

ジョグで回復したセッション

完全休止で回復したセッション

ラウンド走行距離

500~550m

500~550m

回復時間走行距離

250~300m

0m

合計走行距離

約3,000m

約2,100m

平均心拍数

156 bpm

159bpm

ラウンド開始時心拍数

130~135bpm

130~135bpm

最大心拍数

177 bpm

178bpm

ジョグで繋いだ方が回復時間と合計の走行距離が長くなるのは当然だが、他の数値は両セッションでほとんど差が生じなかった。もっとも意外だったのは、回復時間が終わり、次ラウンドが始まる直前の心拍数がほぼ同じだったこと。つまり、ゼーゼーと上がった息を回復時間内で整えるという一面に限ると、ジョグでも完全休止でもどちらでも同じということになる。

今回試した筆者の実験結果は、上の研究とも概ね合致する。ランナーのレベルにかかわらず、少なくとも400~800mの中距離インターバル走の場合、回復時間は特にジョグで繋がなくても良いのではないだろうか。

ランニング以外のスポーツでも応用可能な検証が必要

2分間よりもっと長い距離や時間を走るインターバル走なら、もしかしたら別の結果が生まれるかもしれない。あるいは、回復時間の長さが影響する可能性もあるだろう。いずれにせよ、ランニングに限らずインターバル形式のいかなる試合やトレーニングにおいて、回復時間を軽く動くべきか、あるいは完全に休むべきかを検証してみるべきではないだろうか。自分の経験だけで語るトレーニング方法には普遍性がないし、理論だけで経験が伴わないトレーニング方法には信頼性がない。やはり、実際に“やってみる”ことが大切なのだろう。

By 角谷 剛 (かくたに ごう)

アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。

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