「THE FASTEST GROWING SPORT IN THE WORLD」とは、6月下旬にポーランドで開催された「EUROPEAN GAMES(ヨーロッパ競技大会)2023」でパデルが紹介されたときの言葉です。このヨーロッパ競技大会は2015年に第1回大会が開催され、今回が三度目の開催。そして、今大会で初めてパデルが正式競技として採用されました。今回パデルは23カ国・124人の選手が参加し、正式競技としては珍しい混合ダブルスという種目が採用されています(プロツアーでは男子ダブルス、女子ダブルスのみ)。

日本にいるとまったく感じませんが、海外に行くとパデル熱を本当に強く感じます。5月にアルゼンチンを訪れた際も、現地の関係者が「2回目のパデルブームが来ている」と話していました。実際に増設予定のパデルコートを見せてもらったり、去年できたばかりのパデルクラブに連れて行ってもらいましたが、確かに南米やヨーロッパではパデルの波が来ています。

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「ASIAN GAMES2026」が一つの分岐点

一方、日本を含めたアジア地域では、残念ながらまだそこまでの盛り上がりを見せていません。現在パデルのプロツアーはいくつかあるのですが、そういった大会のほとんどは南米やヨーロッパで開催されており、アジア地域ではこれまで一度も開催されていないのです。そのため、私を含めてプロツアーに挑戦している日本選手の多くは、試合に出場するだけでも多くの時間とお金がかかります。

しかも、国内ではまだまだマイナー競技のため、スポンサーを見つけるのが困難です。多くの選手が自費で世界に挑戦していますし、日本代表として世界大会に出場するときでさえ、選手たちが一部費用を負担しなければいけないという厳しい状態が続いています。このままの状態が続くと、このパデルブームに日本は乗ることができないでしょう。

しかし、いくつか希望もあります。その一つが、「ASIAN GAMES(アジア競技大会)2026」です。この大会に正式採用されるべく、現在、日本パデル協会がさまざまな活動をされています。正式採用されたら、普及のスピードも強化のスピードも加速することは間違いないでしょう。また、多くの選手にとって、モチベーションを保つ一つの要素にもなります。

 「プロツアー」があるということ

6月に開催されたヨーロッパ競技大会に話を戻しますが、現在ツアーで活躍しているトップ選手のほとんどは、この大会に出場しませんでした。その理由は、同じ時期にプロツアーの一つ「WORLD PADEL TOUR (以下WPT)」がスペインで開催されていたからです。似たようなことはテニスでもよく起こりますし、今年開催された野球のWBCでも、そういったことを耳にした人はいるでしょう。

テニスでは通常のツアーを優先するため、オリンピックですらスキップする選手が少なくありません。それはなぜかというと、怪我のリスクや賞金の有無、移動、ランキング、年間スケジュール、(選手から見た)大会の格、スポンサーなどを諸々考慮し、こういった選択になるのではないでしょうか。 仮に私がこの立場だったとしても、やはりプロツアーを優先すると思います。

「THE FASTEST GROWING SPORT IN THE WORLD」だからこその混乱

現在、ゴルフ界ではPGAツアーとLIVゴルフの行方が話題となっていますが、パデル界でも同じような動きがあります。2013年からスタートしているWPTと、2022年から莫大な資金を元にスタートした新しいプロツアー「Premier PADEL(以下PP)」との間で問題が発生しているのです。そして、パデル界には「A1PADEL」というもう一つのプロツアーも存在します。選手たちの試合数が大幅に増加したのに加え、ここ数年でパデル(スポーツ)界にオイルマネーが流れ込んでツアーとツアーの合間を縫ってエキシビジョンマッチなども開催されるなど、選手たちがプレーする機会、そしてプレー以外のことに時間を割くことが多くなりました。

選手としては実力を発揮できる機会が増えますし、選手としての価値を認めてもらっているので良いことではあります。しかし、一方で試合数が増えたが故の怪我のリスクが上がりました。実際、男女共にトップ選手の何人かがケガでツアーを離れなければいけなくなっており、大会側も目玉選手の不出場に頭を抱えています。

ただし、最近になって明るいニュースも入ってきました。来年以降、WPTとPPが統合され、一つのツアーとして再スタートするとの覚書が交わされたのです。賞金が増えて大会数が減るのは選手にとってはプラスですし、観る側としても「誰が強いのか」がはっきりするので、来年以降も世界のパデル界からは目が離せません。

目標は統合された新ツアー出場

ここからは個人的な話になりますが、私は2026年のアジア競技大会に出場することも一つの目標にしています。しかし、統合された新しいツアーに出場することも諦めていません。テニスと同様、数年に一回の大会に標準を合わせるのではなく、年間を通してプレーができる環境を求めています。

現在国内で行われている公式戦で獲得できるポイントは、国内でのランキングにのみ反映されます。そのため、国内でポイントをいくら獲得しても、世界には繋がっていません。ただ、年2回の国際大会が開催されており(今年は7月と9月)、そこでポイントを獲得すれば世界への扉が開きます。

私は世界の中で何番目に強いのか、世界の何番まで行けるのかを知りたいので、もう少し選手活動を続けます。一方で、これからパデルで世界を目指したいという方向けにレッスンも行なっていますので、興味のある方はご連絡ください。一緒に世界を目指しましょう。

By 庄山 大輔 (しょうやま だいすけ)

2019年にアジア人初となるWORLD PADEL TOUR出場を果たし、2021年現在、45歳にして再度世界に挑戦中。全日本パデル選手権二連覇、アジアカップ初代チャンピオン。国内ではコーチ活動も行なっている。モットーは「温故知新」。

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