日常的な運動は子どもの心身に健康面で良い影響を与えるだけではなく、勉強面でも集中力を高める効果がある。また、幼少時に運動能力が高い子どもほど、成長後に高学歴を得て、かつ健康面における自己肯定感も高くなる傾向がある。そんな研究結果(*1)を、ドイツ・ミュンヘン工科大学の研究者らが臨床医学ジャーナルに発表した。

*1. A Better Cardiopulmonary Fitness Is Associated with Improved Concentration Level and Health-Related Quality of Life in Primary School Children.

目次

運動能力と集中力との間に関連性を発見

この研究では、ドイツ国内のある学区に通う3,285人の少女と3,248人の少年が観察対象になった。年齢はドイツの小学校就学年齢にあたる6~10歳。研究者らは国際的な標準テストを用いて、各生徒の筋力や持久力、集中力、そして健康指標との関連を解析した。

すると、結果は明らかだった。運動能力が高い子どもほど、学力や集中力も高くなる傾向が認められたとのことである。小学校で運動能力テストの得点が高い子どもは集中力テストでも高得点を獲得し、中学校以上への進学後も学力が上位になる確率がより高い。特にVO2maxのような心肺能力を示す指標と集中力との間に、高い相関性が認められたと論文著者たちは結論で述べている。

男女で比較すると少年は運動能力テストで得点が高く、少女は集中力の分野で得点が高かった。研究の対象となった学区では、すべての小学生たちに運動を促進するとともに、1年間のスポーツクラブ会員権を提供することを決めたそうだ。

子どもの肥満にも新たな警鐘

さらに子どもについては、体重に関して気がかりな研究結果がある。太り気味か肥満の子どもは、痩せ気味か標準的な体重の子どもと比較して、すべての運動能力テストで得点が低かった。それだけではなく、 肥満の子どもは自己への肯定感が低く、学校での友人の数も少なくなる傾向が認められたのである。

子どもの肥満は、もちろん運動不足だけが原因ではない。しかし、その大きな要因のひとつであることは間違いないだろう。

日本の課題

日本では、子どもの体力や運動能力の低下が社会問題になって久しい。文部科学省が1964年から毎年公表している体力・運動能力調査(2015年からはスポーツ庁)によると、子どもの体力と運動能力は1985年をピークに低下傾向が続いているとのことである。

また、運動能力だけではなく、日本では子どもの学力が低下していることもよく問題になる。国際的な学力ランキングでも、日本が順位を落としていることはご存じの方もいるだろう。しかし、運動能力と学力の低下は果たして別々の問題なのだろうか。前述の研究結果をあてはめると、むしろこの両者には密接な関係があると考えるべきだろう。

令和2年のスポーツ庁による調査報告書(*2)に、こんな記述がある。小学校入学前の外遊びの実施状況と 6~11 歳の新体力テストの合計点との関係について、「男女ともにいずれの年代においても,小学校入学前に週4日以上外で体を動かす遊びをしていた群の合計点は、週 3 日以下の群よりも高い傾向を示している」(38ページ目)とのことだ。

*2. 令和2年度体力・運動能力調査報告書について

よく外で遊ぶ子どもは、そうでない子どもより体力が高くなる。ごく当たり前のことのようだが、それが意味することは大きい。なぜなら、この記述によれば小学校に入る前から外遊びを週3日以下しかしない子どもが、日本にはある一定数存在するということを示しているからだ。

 

子どもがあまり外で遊ばなくなった原因はさまざまだろう。少子化が進んでいるということは、一緒に遊ぶ兄弟や友人も以前より少なくなっているはずだ。受験対策のために塾通いする子どももいるだろうし、室内でゲームを好む子どももいるだろう。そもそも、自由に遊び回れる空き地や公園が減少しているという、社会環境面の要因も見逃せない。

このように、現在の子どもたちが自由に遊び回れる状況ではない以上、私たち大人は子どもの運動不足について、もっと真剣に取り組む責任があるのではないだろうか。幼児期に十分遊べないと、将来的に体力や学力が不足する原因になるかもしれないのだ。

大人が運動不足から心身の健康を損なったとしても、あるいは仕事の集中力が低下したとしても、それは自分自身が選択したライフスタイルがもたらす結果なのかもしれない。しかし、子どもたちに自分が育つ環境を選ぶことはできないのだ。

By 角谷 剛 (かくたに ごう)

アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。

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