スポーツ関係者の間で、フィットネストラッカーの人気が高まっている。これは歩数や移動距離、心拍数、エネルギー消費量、睡眠パターンなど、さまざまなフィットネス関連データを計測できるウェアラブル機器のことだ。現在はスマートウォッチと呼ばれる腕時計タイプの製品が主流だが、指輪型のような他タイプの製品も利用者を増やしつつある。

以前までトレーニングの効果や回復度合いなどは、指導者の経験やアスリートの体感によって判断されることが多かった。その部分に客観的な科学的データがより強く求められるようになってきたことが、フィットネストラッカー市場の成長を後押ししているのではないだろうか。

目次

フィットネストラッカーが出すデータに信頼性はあるか

科学的データに基づいてトレーニング計画を立てるのであれば、そのデータが正確であるということが大前提になる。なぜなら、間違ったデータからは間違った計画しか生まれないからだ。では果たして、フィットネストラッカーが出す数値は本当に正しいのだろうか。

筆者がその疑問を抱いたことには訳がある。あるフィットネストラッカーを装着し、30分間程度の軽いジョギングと、クロスフィットのかなり激しいワークアウトを同じく30分間行ったときの数値を比較したことがあるのだ。すると、ジョギングのエネルギー消費量が249 kcalと表示されたのに対し、クロスフィットのそれは約半分の121 kcalだった。

自分の体感からすると、ジョグは軽く汗をかいたくらいでほとんど疲れなかった。しかし、クロスフィットでは終了後に床に倒れ込むくらい疲労困憊になったし、なにより筋肉がパンパンに張った。どう考えてもクロスフィットの方が体力を消耗したはずなのに、消費したエネルギーはジョグの半分ということが、どうしても納得できなかったのだ。

フィットネストラッカーを比較調査した学術研究の結論

筆者と似た疑問を感じる人は少なくないようだ。2017年の段階で、すでに米国スタンフォード大学の研究者らが9つのフィットネストラッカー製品を対象にし、それぞれが表示する心拍数とエネルギー消費量(カロリー)を専門施設で計測された数値と比較検証した研究がある(*1)。

*1. Accuracy in Wrist-Worn, Sensor-Based Measurements of Heart Rate and Energy Expenditure in a Diverse Cohort. 

その結果、フィットネストラッカーに表示されるエネルギー消費量と、専門施設の計測値との間には大きな隔たりがあった。もっとも誤差が少ない製品で27%、もっとも誤差が大きな製品では93%の違いがあったということだ。その一方、心拍数の数値はどの製品もほぼ正確だったらしい。論文著者らは結論として、フィットネストラッカーのエネルギー消費量を基にトレーニング計画を立てることへの危険性を指摘している。

さらに、新たな研究(*2)が20209月に発表された。カナダ・ニューファンドランド・メモリアル大学の研究者らが中心となり、既存158の論文を解析したシステム・レビューである。

*2. Reliability and Validity of Commercially Available Wearable Devices for Measuring Steps, Energy Expenditure, and Heart Rate: Systematic Review. 

ここでも9つのフィットネストラッカーを対象にして、歩数、心拍数、そしてエネルギー消費量の正確性と信頼性を比較。すると、2017年のスタンフォード大研究と似た結果が出た。どの製品も歩数と心拍数に関してはほぼ正確だったが、エネルギー消費量に関してはどの製品も正確ではなく、かつ製品ごとに出す数値にはばらつきが多く見られたということである。

現時点でエネルギー消費量はトレーニング効果の基準にはならない

筆者の体感からも、そして学術調査の結果からも、フィットネストラッカーが表示するエネルギー消費量はどうやら正しいものではないらしい。そう結論づけることもできるだろう。フィットネストラッカーでエネルギー消費量が多く表示されたとしても、それはトレーニング効果が大きいことを意味するのではなく、その逆もまた然りである。

ただし、フィットネストラッカーはまだ新しい分野であり、どの製品も常にアップグレードを繰り返している。将来的には、エネルギー消費量測定の正確性も格段に向上するかもしれないし、あるいはすでに成功している製品があるのかもしれない。

ちなみに、前述した2つの論文では具体的な製品名を挙げて研究結果を発表しているが、本記事では不要な先入観を生じさせないため、あえてフィットネストラッカーと総称するに留めた。どの製品を利用するにしても、データを妄信するのではなく、あくまで参考にする姿勢がユーザーには求められるのではないだろうか。

[筆者プロフィール]

角谷剛(かくたに・ごう)

アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。

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By 角谷 剛 (かくたに ごう)

アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。

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