New Road(ニューロード)

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音楽のテンポがランニングのペースに与える影響

米国で市民マラソン大会に参加すると、大音響で音楽を流しながら応援してくれる人がコース沿いに必ず何人かいる。それだけではなく、自らも走りながら周りに聞こえるくらいの音で音楽を流すランナーも少なくない。

そんなマラソンの応援ソングとして一番の定番は、何と言っても「ロッキーのテーマ」だろう。あの勇壮な曲ほど疲れたランナーたちを励まし、奮い立たせてくれる音楽は他にない。そんな風に感じるのは、けっして筆者1人ではないはずだ。

 レースだけでなく、普段のジョギングでもイヤホンで音楽を聴きながら走るランナーの姿はよく目にする。BGMに選んだ音楽によって調子や気分が良くなったり、あるいは悪くなったりすることを感じている人は多いだろう。 

速いテンポの音楽はペースを高め、遅いテンポの音楽は回復を助ける

単なる感覚の話だけに留まらず、音楽のテンポがランナーの物理的なパフォーマンスにどう影響するかを実際に調べた研究(*1)がある。

*1. Influence of music on maximal self-paced running performance and passive post-exercise recovery rate

2016年にスポーツ医学ジャーナル『Journal of Sports Medicine and Physical Fitness』に発表されたこの研究では、12人の被験者ランナー(女性5名、男性7名)に3つの異なる種類のBGMをランダムな順番で割り振った。「1.音楽なし」「2.速いテンポの音楽」「3.遅いテンポの音楽」である。それぞれのセッションは、20分間のトレッドミル走を自分のペースで走ってもらった。そして走行中の平均スピードと心拍数、さらに走り終えた後の心拍数と血中乳酸濃度の変化、および主観的な疲労度を比較したのだ。

すると、速いテンポの音楽を聴いたときランナーのペースはもっとも速くなり、最大心拍数は高くなった。それにもかかわらず、主観的な疲労度には他と条件のときと大きな違いはなかったということだ。

 

速いテンポの音楽

遅いテンポの音楽

平均走行スピード (km/h

10.8±1.7

9.9±1.4

最大心拍数  (bpm

184±12

177±17

速いテンポの音楽を聴くと疲れが吹き飛んだ気分になり、走る力が湧いて出てくる。もしそんな風に感じたことがあるとすれば、それは決して気のせいではなかったのだ。

この研究では、もう1つの興味深い結果も報告している。それは、走り終えた後の回復には走るときとは逆に、遅いテンポの音楽が効果的だということだ。被験者ランナーたちは20分間走った後、20分間のクールダウンを課せられた。すると、回復セッション中に遅いテンポの音楽を聴いたときランナーの心拍数はもっとも速く正常値に戻り、血中乳酸濃度は低くなった。つまり、回復が早くなったというのである。「ゆっくりとした音楽を聴くとリラックスできる」という点も、恐らく同じように感じたことがある方は多いだろう。

この研究から分かることは、もしランニング中のBGMを自由に選べるなら、走りたいペースに応じて音楽のテンポを変えると効果的だということ。ウォームアップやリカバリーランではペースも心拍数も急激に上げる必要はないため、遅いテンポの音楽が相応しい。そして、ペースを上げる局面では速いテンポの音楽に切り換える。さらに走り終わった後、クールダウンやストレッチではまた遅いテンポに戻すと良いという結論になる。走り出す前のプレイリスト選びに迷ったときの参考にしてほしい。

屋外ランニングのイヤホン着用は要注意

音楽がランニングペースに影響を与えるとして、筆者は屋外で走るときにイヤホンで音楽を聴くことをあまり奨励しない。それどころか、指導する高校生ランナーたちの練習中にはそれを禁止している。なぜなら、イヤホンからの音で耳が遮られていると車のクラクションが聞こえにくかったり、背後からの自転車やランナーに気づかなかったりする危険があるからだ。交通量が多い場所や狭い歩道では特に注意が必要である。どれだけパフォーマンスに効果があったとしても、自分と他人の安全を脅かす方法は取るべきではない。

AirPodsのように外部の音声を取り込めるもの、あるいは耳を塞がない骨伝導のイヤホンなら、ある程度は危険度が下がるだろう。しかし、それでも音楽に気を取られ、周囲への注意力が低くなってしまうことには変わりはない。ここで取り上げた研究がそうであったように、イヤホンでのBGMはトレッドミルで走るときに限定した方が良いだろう。

レース中、ここ一番という場面で沿道から聴こえる、気分を大きく盛り上げてくれる大音量でアップテンポの音楽。その効果も去ることながら、やはりレースで応援してくれる人々の好意に期待と感謝をするべきではないだろうか。

[筆者プロフィール]

角谷剛(かくたに・ごう)

アメリカ・カリフォルニア在住。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州内の2つの高校で陸上長距離走部の監督と野球部コーチを務める。

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