ときとして気の持ちようは、選手のパフォーマンスを最大限まで引き出すことがあります。トップアスリートが試合後のインタビューや振り返りで、次のようなコメントを述べている場面を見たことがある方は多いでしょう。

「意識しなくても体が動いた」

「味方がどこにいるのか目を向けなくても理解できた」

「急に身体が楽になった」 など

これらは、いわゆるゾーンやフローと呼ばれる状態にあった結果だと言われます。極度な集中状態を作ったうえでいくつか条件が整うと、唐突にフローに入ることがあるそうです。

私自身の経験ですと、「あのときはフロー状態だった!」という記憶、あるいは確信して言えるような場面はありません。正直、どんな状態がフローと呼ばれるものなのか、私自身も理解していません。私の認識としては、「なんかすごく目の前のことに対して集中できている状態」という程度の認識です。

これもフロー状態の特徴の一つらしいのですが、人によってはフロー状態に入っているときは意識や記憶がハッキリしているのに、振り返ってみると何やら朧気で、あまり記憶に残っていないこともあるのだとか。ということは、レースの記憶を辿っていって、どこかですっぽりと記憶が抜けている場面があれば、そのときはフロー状態に近かったと言うことになるのでしょうか。人の意識や自我のような部分の話になるので、詳しいことはまだわかりません。

ただし、ゾーンやフローについて個人的に一つだけ確実に言えると考えていることは、「自信の有無」です。あくまでも経験則と知識をもとにした内容となりますが、今回は私なりに考える、フローに入るための条件をご紹介します。

目次

自信

大前提として、自分に絶対的な自信がないと、フローに入ることはないと考えています。広辞苑(第六版)には、自信について「自分の能力や価値を確信すること。自分の正しさを信じて疑わない心」と説明がありました。心は、パフォーマンスを支える一番下の土台の部分です。この土台が自信というもので強固に固められていれば、その上にパフォーマンスや戦術、戦略、連携などの競技要素を積み上げても、崩れることがありません。

高いビルを建てるときには強固な基礎が必要です。その基礎にあたるのが心の部分であり、より強固にさせるため、自信というものが必要になってきます。フローの状態について私の感覚で説明してみると、自分で建てた競技パフォーマンスという高いビルの頂上から、思い切り天高く跳び上がっていくイメージです。その踏切の際に必要になるのが、何があっても倒れないパフォーマンスというビルであり、その基盤を支える心の部分「自信」になります。「確実に練習を積んできた」「何があっても大丈夫だ」と思えるほど自分に自信がある状態のレースほど、レース中の記憶が抜けている(おそらくフローに近い状態)ことが多いものです。

自信を作るもの

では、フローに入るために必要な“自信”は、どうすれば得られるのでしょうか。メンタルトレーニングが必要なのか、より鮮明なイメージトレーニングを行えばよいのか。あるいは絶対に折れない心を作ったり、ハードな練習を繰り返したり、誰よりも練習したり。色々と考えらえますが、私は「どうすれば自信を得られるのでしょうか?」と問われたとき、自分自身が考えついた回答すべてが必要なのだと思います。

昔、何かの文献でフローに入った選手のインタビューを読んだことがありました。そのとき、その選手はフロー状態のときのことを、「ちり一つも無いまっさらな部屋に精神が放り込まれ、視界だけがクリアになる感じ」と表現していたのを覚えています。ここで言う“ちり”とは、思考に挟まるノイズ、主に不安や焦りのことなのではないでしょうか。

「このままで本当に勝てるのか?」

「次に何をすれば良い?」

「味方は何を考えている?」

「相手はどう動く?」 など

競技していると、絶えず不安要素というものが飛び込んできます。それらすべてに対して「でも、自分はそれら全てに対応できる。絶対にできる。」と解答を叩きつけることができる状態。これが「自信がある」状態であり、フローに入る第一条件なのかなと私は考えています。

そのための練習、事前の準備

結局のところ、フローという特殊な精神状態に入るには、リアルでの練習やトレーニングを積んでいく必要があるでしょう。日々、競技の練習を積み上げているからこそ自信が持てます。目標タイムに対して、練習中にそれよりも速いタイムで走るからこそ、本番では必ずできるという自信になるものです。そして、何が起きても大丈夫なくらい準備するからこそ「不安」がなくなり、より眼の前のプレーに対して集中できるようになります。つまり、私が考えるフローに入るための条件は、以下のような流れです。

  1. 積み上げてきた日々の練習や準備
  2. 自分自身のパフォーマンスに対する確固たる自信
  3. 競技中に不安要素が生まれる余地がないため高い集中状態を作れる
  4. フローに入るための条件が整う

もちろん、研究したり勉強したりしたわけではなく、私自身の経験と知識から導いた、あくまで個人の考えに過ぎません。そもそも、フローがどのような状態なのかも、私は理解しきれていないのですから。しかし、フローにこだわらずとも、試合に臨むうえで上記のような状態を作り上げられていることは、おそらく理想的なのではないでしょうか。もしかすると、フローというのは、そういった理想の状態を作れた結果なのかもしれませんね。

By 古山 大 (ふるやま たいし)

1995年4月28日生まれ、東京都出身。流通経済大学を卒業後は実業団チームに所属。2020年1月に独立し、プロトライアスロン選手として活動。株式会社セクダム所属。 <主な戦績> 2015年「日本学生トライアスロン選手権」優勝 2017年「日本U23トライアスロン選手権」優勝 2018年「アジアU23トライアスロン選手権」2位 2019年「茨城国体」3位、「日本選手権」11位 2021年「日本トライアスロン選手権」4位

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